2005年06月28日

いつかどこかのバーで

東京では今日、気温が36度を超えたそうだ。もはや亜熱帯である。こんな日は早い時間に仕事を切り上げて、バーで一杯飲みながら昼の余熱が冷めるのを待ちたいものだ。
初夏の夕暮れ時。行き交う人のシルエットが徐々に薄墨色に変わっていく街をゆっくりと歩きながらバーに向かう。
ドアを開けると、ひんやりとした空気が身を包む。ピカピカに磨き上げられたカウンター。その向こうには、パリッと糊のきいたシャツを身にまとった蝶ネクタイ姿のバーテンダー。控えめな歓迎の言葉。ほかに客はいない。
カウンターに腰を下ろして、何をオーダーするか少し考え込む振りをする。実は最初の一杯はすでに決めてあるのだ。

「ギムレットを‥‥」

レイモンド・チャンドラーの小説が好きな人なら、このオーダーに思わず笑みを浮かべてくれるかもしれない。

都会に暮らしてよかったと思うことの一つは、思い立ったときバーに行けることである。居酒屋でもなく、スナックでもなく、クラブでもない。しかめ面とため息に満ちた日常から、穏やかな笑顔と満足な吐息に囲まれた非日常の世界へ。バーという存在を知らない人、知っていても足を向けたことのない人は気の毒だと思う。
無理に勧めようとは思わないが、興味がある人のガイド役を務めるのも、たまにはいいだろう。

◆バーとスナック、クラブはどこが違うのか
ここで言うバーとはショットバーのこと。ショットバーとは、簡単に言うとお酒を一杯ずつ出してくれるバーのこと。スナックのようにボトルキープはできないし、もちろんカラオケ装置なども置いていない。また、クラブのように女性(ホステス)が席に着くこともない。
細長いカウンターがあり、バーテンダー1〜3人で店を切り盛りしているのが一般的なスタイル。最近は女性バーテンダーも珍しくないが、あくまでお酒とサービスを提供する専門職であり、ホステスではない。
洋酒専門で、日本酒や焼酎は原則として置いていないし、洋酒にしても国産品は高級品以外は置いていないと考えてよい。

◆値段はいくらかかるのか
チャージ料(席料のことで、500円ぐらいから2000円ぐらいまで)がつくのが一般的。お酒は1杯800円から1500円ぐらい。3〜4杯飲んで5000円程度と考えておけば間違いない。この値段を高いと感じる人は多いと思うが、ギャンブルで1日に何万円も使う人もいれば、ブランドもののバッグに何十万円もつぎ込む女性もいる。要は価値観だろう。なお、よほど変な場所にある変な店に入らない限り、ボラレルことはないと思う。
ちなみに、私がよく行く銀座のバーは値段が安くて(お酒やサービスの質は高い)、4杯飲んで4000円払うとお釣りがくる。

◆タブー
・酔っぱらって(泥酔して)行く。
・大声で話す。
・カウンターの奥に肘をついたり寝そべる。
人の迷惑になるような行為、だらしない行為はしないということです。
・お酒を飲まない。
おしゃべりに夢中になって、1時間に1杯しか飲まないという客が時々いる。店の視点に立てば、商品を買わないで場所を占拠し続ける営業妨害のようなもの。おしゃべりだけが目的なら喫茶店に行けばよい。飲む量の目安は1時間に2〜4杯程度。

◆初心者の心得
・オコチャマ御用達の街(渋谷など)や欲望ギラギラの街(新宿歌舞伎町など)よりは、いわゆる“大人の街”にいいバーは多い。最初は気の合った友人と2人で出かけるのがいいでしょう。それでも敷居が高ければ、シティホテルのバー(ラウンジではない)で腕試しという手もあります。
・腹ごしらえをしてから行く。バーはお酒を楽しむところで、食事は別のところでしていくのが原則。バーでアペリティフ(食前酒)を飲んでから別の場所で食事、というのもおしゃれだが、最初のうちは食後に行くのが無難でしょう。
・知ったかぶりをしない。わからないことがあればバーテンダーに素直に聞く。普通は親切に教えてくれるが、そうでないならすぐ店を出たほうがよい。
カクテルが飲みたくても名前を知らないときは、どんな味が好みかを言うだけで作ってくれる。

  ☆

この拙文を読んでバーに興味を持った方が一人でもいたら幸いである。自分好みのバー、居心地のよいバーを求めて、どんどん出かけていただきたい。
いつか、どこかのバーで、お会いすることがあるかもしれません。
posted by ギャンブラー at 21:59| Comment(20) | TrackBack(0) | 暗くて心地よい場所 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
実は私、神戸の超老舗バーで修行をして、暫く夜の世界で生きていたんです。一杯目からギムレットやマティーニを頼まれるお客様は背筋が伸びましたね!しかもそのカクテルを3口程で飲まれる粋なお客様だったら尚更の事!「知ったかぶりで無い!」と。

しかし最近はそんなお客様は皆無と旧友のバーテンダーから聞きます。今はバーでもカフェ感覚らしいです。カシスソーダなどの限りなくソフトドリンクに近いロングカクテルを一杯で数時間も居座ると言う、、、。

ギャンブラーさんは良いお客様ですね!
Posted by Lehua at 2005年06月29日 00:50
私の好みは『ブラッディ・マリー』です。
Posted by 不良中年 at 2005年06月29日 08:00
Lehuaさんが神戸の老舗バーで修行されたと聞いて、のけぞっております。そんな人に向かって、自慢げに素人の講釈を垂れたかと思うと、背中からいや〜な汗が流れてきます。
そういうお店での修行は大変厳しいと聞いています。今どきのくだけたバーとは違ってバーテンダーの立ち居振る舞いが全然違いますし、お酒をグラスに注ぐ動作一つとっても洗練されていて、もはや職人の名人芸を見る思いがします。
関西のバーは京都の祇園サンボアと飛鳥ぐらいしか知りませんが、いずれもいいバーでした。神戸に行く機会があったら、Lehuaさんが修行されたという超老舗バー(何となく想像がつきます)に行こうと思います。
Posted by ギャンブラー at 2005年06月29日 12:30
不良中年さん。ブラッディ・マリー、いいですね。私もシングルモルトよりはカクテル派で、サイドカーやマルガリータが好きです。
今度、全快祝いとしてご夫婦でバーに行かれてはいかがですか。そのときはシャンパンでも開けて‥‥(笑)。シャンパングラスにアンゴスチュラビターを1ダッシュか2ダッシュ入れ、そこにシャンパンを注ぐカクテルを頼んでみて下さい。きっとお気に召すと思います。
名古屋のバーはキャッスルホテル1Fのメインバーに行ったっきりですが、なかなか重厚でいいバーでした。
Posted by ギャンブラー at 2005年06月29日 12:43
わたしが初体験したバーは、神戸の「キングスアームス」でした。
何しろ学生でしたので、ルールやマナーも知らず、やたらと緊張してシングルモルトを何杯か飲んだ記憶があります。

それから数え切れないほどいろいろなバーに足を運びましたが、ついに入ることがなかったのが「トリスバー」です。
その看板を見かけることがなくなって久しいですが、いちどアンクルトリス風にハイボールを楽しんでみたかったと後悔しています。
Posted by ato at 2005年06月29日 19:22
atoさん。私はトリスバーには一、二度しか行ったことがありません。しかし、開高健、山口瞳という好きな作家と切っても切れない存在ですから、ずっと気になっていました。ところが、最近読んだ本で、トリスバーがお茶の水駅の近くに現存していることを知りました。値段も驚愕的な安さだとか。今もあるかどうかはわかりませんが、一度探しに出かけようかなと思っています。
トリスバーと言えば、「洋酒天国」という雑誌も有名です。私が定期購読していた頃は「サントリークオータリー」と誌名を変えていましたが。
最近、1本100万円の「山崎」を売り出して話題のサントリーですが、こっちのほうにももっと予算を付けてくれないものかと思っています。
Posted by ギャンブラー at 2005年06月29日 20:09
はたちをようやく出たばかりの学生の頃、父に銀座のバーに連れて行ってもらいました。バーテンダーの粋なお爺さんがひとりで切り盛りされていたお店でした。お爺さんが亡くなられて、あの店はなくなってしまったのだと聞いたのは数年前。寂しかったです。


法律違反にしても早いだろう、という年齢のときにバハマで飲んだピニャコラーダは美味しかった(甘いですしね)大人になって日本で飲んだら気候のせいか、あまり美味しく思えなくて残念でした。

それ以外にカクテルは名前も味もよくわからないのですが、「いつも青いの飲んでますね」と指摘されたことがあります。ビジュアルで選んでるらしいです・・・まだまだすぎる・・・

いまだにバーって憧れですねぇ・・・誰かエスコートしてくれないかしら(笑)
Posted by たま@ at 2005年06月29日 23:11
たま@さん、こんばんは。やっと女性客がいらっしゃいました(笑)。それにしても、バハマで飲んだピニャコラーダ、しかも少女の頃‥‥一体どんな生活を送ってこられたのでしょうか。
二十歳を過ぎた娘と銀座のバーに行く――父親にとっては理想のパターンです。いい親孝行をしましたね。
青いカクテルに魅かれるのでしたら、シティ・コーラルなんてどうでしょう。資生堂のバー・ロージェの名物バーテンダーだった上田さんの手になるカクテルです。今は同じく銀座で「バー テンダー」という店をやっていらっしゃいます。かなりお高いバーですが。
私がたま@さんをエスコートしましょう、と言いたいところですが、父娘に間違われそうなので、やめときます(笑)。
Posted by ギャンブラー at 2005年06月29日 23:54
記事とは逸れて申し訳ないですが、
ギャンブラーさんの、のけ反っておられる姿を想像して
大笑いしました。
何せ、昨日私に、「もう20年修行しなさい」と
言われた直後でしたから。

そして、「ギムレットを・・・」という前に
なぞなぞの答えを聞いて頂かないと、困ります。
Posted by かわうお at 2005年06月29日 23:58
もう、かわうおさんったら。せっかくたま@さんと楽しくおしゃべりしていたのに(笑)。
なぞなぞに答えないとお酒が飲めないバーなんてあったら‥‥案外はやるかも。でも、なぞなぞの苦手な私は行きません、たぶん。
Posted by ギャンブラー at 2005年06月30日 00:05
たま@さんに追伸。かわうおさんはあっちに行ったようですから、気にしなくていいです(笑)。
>バーテンダーの粋なお爺さんがひとりで切り盛りされていたお店
って、ひょっとして「クール」ですか? あの好々爺のようなおじいさんは古川さんと言います。私はあの方に、戦前に買った馬券を見せてもらったことがあります。私も長生きしたら、あんなおじいさんになりたいものです。
それにしても、クールを知っていらっしゃるお父さんも素敵です。
Posted by ギャンブラー at 2005年06月30日 00:11
私が修行したお店はギャンブラーさんがおっしゃるように大変厳しかったです。洗ったグラスを拭く事ですら入店後3ヶ月はお客さんの前で拭かせてもらえませんでした。グラスを拭く所作ですら無駄が無く美しくなければいけないと言う理由なのです。

カクテルも開店前と開店後に先輩バーテンダーに毎日、しごかれ試行錯誤してました。そんな私の姿をマスターは全く目にとめていない風でした。、、、で、1年経ったある日の夜、常連さんのジンリッキーのオーダー時に、、、(続く)
Posted by Lehua at 2005年06月30日 10:11
マスター「王(常連さん)さん、彼の初めて作るジンリッキー
     飲んであげて下さい。私のおごりです。」

常連さん「おぉ!こちらこそ!光栄やな!
     直(私)ちゃん!美味し〜いの、一杯頼むわ!」

私「かしこまりました(緊張で震え出す)」

マスター「(私の耳元で)リラックスしな!
     一年間がんばって来たんだろ!直ちゃんなら軽い軽い!」

私 (緊張でガクガク震える手で何とかジンリッキーを作りサービス)

常連さん「(クッーと一気のみ)くぁ〜っ!美味い!
     美味かったで!直ちゃん!もう一杯お代わりや!」

私「ありがとうございます!(飛び上がるほど嬉しかった)」

と、これがその老舗バーでのカウンターデビューでした。
とても素敵なお店です。ギャンブラーさんが神戸に来られる機会がありましたら是非、そのバーで美味いお酒を飲んでみて下さい。伏せてましたが、、、

その老舗バーの名前は「YANAGASE」です。
Posted by Lehua at 2005年06月30日 10:11
Lehuaさんの初々しい姿が目に浮かぶようです(笑)。そして、良いバーテンダーと良いバーは、良い客が作るものだと改めて感じました。常連さんの「美味い!もう一杯お代わりや!」という言葉には、Lehuaさんへの励ましとバー「YANAGASE」への愛がこもっているようです。
Lehuaさんが修行したのは「サヴォイ」か「YANAGASE」あたりかなと思っていましたので、予想は的中したことになります。ぜひ一度行きたいものです。
Posted by ギャンブラー at 2005年06月30日 21:00
こんばんは。
ギャンブラーさんの情報を頼りに検索したところ、店の名前と所在が判明しました。
お茶の水駅のそば、「まいまいつぶろ」という店です。
ネタ元はこちら。
http://www.suntory.co.jp/whisky/torys/bar_tanbow/index.html

Posted by ato at 2005年06月30日 22:24
atoさん、紹介していただいたサイト、なかなか読みごたえがありますね。さすがサントリーです。それにしてもトリハイが160円って、すごすぎ。お金だけの問題ではありませんが、それにしてもお金の価値というものを考えさせられます。マスターもご高齢のようですし、お元気なうちにぜひ一度足を運んでみます。
Posted by ギャンブラー at 2005年06月30日 22:44
Barですね。一人ではちょっと私には敷居が高いような気がして、どなたかに連れて行ってもらうことが多いのですが、飲むものは大体決まってきてますね。いろいろ勉強しました。シェイカーなどのセットも持っていたりして(笑)
私もジンベースの余り甘くないカクテルを始めに頼むかな。ジントニックとか。で、お勧めのカクテルか、美味しいバーボンあたりをダブルでロックでいただきます。
美味しいお酒を飲みに行くのは、実は大好きです♪
Posted by りりぃ at 2005年07月01日 17:21
きっとりりぃさんはバーが好きだと思っていました。でも、シェーカーを持っていらっしゃるとまでは思いが及びませんでした。実は私も持っていて、ひところカクテルづくりに凝ったものですが、当然のことながらプロにはかないません。
>バーボンあたりをダブルでロックでいただきます。
まさか底なしではないでしょうね。本当の酒豪は女性に多いというのが、経験から得た教訓です。いつかご一緒したいものですね。
Posted by ギャンブラー at 2005年07月01日 20:29
「シティ・コーラル」調べてみました。素敵ですねvいつか敢えて真冬に飲みたくなりそうです(笑)
銀座のバーの名前は忘れてしまったので、こんど父に会ったら聞いてみます。
・・・父娘には見えないと思いますよ!!(笑)
Posted by たま@元商社マンの娘 at 2005年07月02日 08:18
「クール」というのは私の早とちりでしたか。でも、「銀座のバー」「粋なおじいさんのバーテンダー」「最近亡くなられて店もなくなった」とくれば「クール」以外には思いつきません。
シティ・コーラルのほかに「花椿」というカクテルもオススメです。私はこっちのほうが好きですかね。今でも8丁目の資生堂11Fのラウンジでオーダーすることができます。
>父娘には見えないと思いますよ
お心遣い、心にしみ入ります(笑)。
Posted by ギャンブラー at 2005年07月02日 21:46
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