2010年09月11日

文化の喪失

お酒を飲まなくなって(飲めなくなって)3ヵ月以上経つ。この間、会社の飲み会や知人との食事など、いわゆる酒席に出ること数回。いずれもノンアルコールビールか、なければウーロン茶で乗り切った。特に不都合は感じなかったから、私は根っからの酒好きではないのだろう。主治医から、今後ずっと酒を断たなければならないと宣告された時は非常にショックだったが、これならなんとかなりそうだ。

さらに私を勇気づけたのは、久しぶりに訪れた行きつけのバーでの応対である。私が入院していたこと、退院後も禁酒を余儀なくされていることは知人を通してすでに伝わっていたから、私が顔を出す可能性があまりないことは当然わかっていたはずだ。しかし、ドアを開けて入っていくと、バーテンダーは特段驚いた表情を見せることもなく、いつも通りに「いらっしゃいませ」と出迎えてくれた。それがまずうれしかった。さらにうれしかったのは、私がいずれ飲みにくることを見越して、ノンアルコールのレシピをいくつか用意してくれていたことである。こうなればもう、お任せでオーダーするしかない。
まず出てきたのが、レモンスカッシュ。あの、喫茶店で飲む甘ったるいレスカとは似ても似つかぬ辛口の飲み物である。レモンの酸味が程よく利いて、気持ちがシャンとする。次に、これまで見たこともない、どろりとした深紅の液体が小さなリキュールグラスに入れられて目の前に置かれた。「?」と目で聞くと、「まず飲んでみて下さい」という。一見、年季の入った甘口のリキュールのようだが、口に含むと、甘さはあまりなく、コクのある酸味が感じられた。果汁であることはわかるのだが、それが何の果物かは見当もつかない。聞けば、ある種のベリーとチェリーの濃縮果汁で、料理用として使われるのだという。そのバーでは料理を出さないから、なぜそんなものを常備しているのか、これまた見当もつかないが、銀座のバーの懐の深さを再認識させられた。

かくして私の“ノンアルコール・ライフ”は極めて順調に推移しているが、どこか暮らしの芯が抜けてしまったような心持ちがするのもまた事実である。例えば私はこんなことを夢想する。
ある初秋の夕暮れ、久しく会っていない妙齢の女性と街でばったり出会ったとする。聞けば特に予定はないという。当然「食事でも…」となろう。そして食事のあとは当然「じゃ、バーにでも」となる。これは必然である。従来なら何の問題もない成り行きだが、しかし今の私は、これからバーで積もる話をしようという状況を前にして、「実は酒を飲めなくてね…」と歯切れ悪く言い訳しなければならない。これはいけません。無粋というものです。
かつて「文化や芸術といったものが不倫から生まれることもある」と発言した芸能人がいたが、私は「酒は文化であり人との出会いであり、そこから豊穣な人生が開けることもある」と言いたい。それが叶わぬ我が人生!
やはり酒は飲めるに越したことはない。
posted by ギャンブラー at 11:36| Comment(12) | TrackBack(0) | 暗くて心地よい場所 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
おはようございます。

季節も秋に移り変わりましたね。お体の方は大丈夫ですか…というよりもお酒のお話でしたね(笑)。

人と人をつなぐ文化の『お酒』の喪失は、痛手なことだと思います。でも、こうして周りが考えて様々な工夫をこらしてくれていることも、また『お酒』が紡ぐ文化だとも思います。

>「酒は文化であり人との出会いであり、そこから豊穣な人生が開けることもある」

接着剤でもあり、その人の本来の姿が(裸の姿が)一番垣間見える瞬間…それがお酒の席なら、それを失ったことは、痛手と言わざるを得ないかもしれないんですが、相手を酔わせて本音を引き出せる(笑)、これもまた有かもしれませんよ!!! お酒を失ったギャンブラーさんの、次なる人間関係の構築の姿をまた、ここで期待しながら待っています!!!

でも…そのうち、私が東京へ行った時にぜひ、ご一緒したいと思っていましたが、この状況ではどうかな〜と思っていましたが、何とかバーへは行けそうですね(笑…何と勝手な解釈か!!! ギャンブラーさんのことも考えずに!!!)。

ところで…すでにご存じの様ですが、私が書いていたブログサーヴィスが9月末で終了ということで、新しい場所へ移りました。リニューアルすべきはブログではなく書き手?という話もあるんですが、またお越し頂ければ幸いです。そうそうギャンブラーさんと並ぶ、私の盟友(迷友!!!)も来て下さりました!!!
Posted by 教授 at 2010年09月12日 12:14
心中お察しします。

歳をとるにつれ身体のあちこちが壊れてきます。
それにともなって
できなくなることも増えてきますね。

でも、そうやりながら
いつしかそれが当たり前になって…。

少しずつ

でも確実に小さく老いていく。

まぁ、、、
そんなもんさ…なんて開き直って
臆することなく生きていきましょうw

威張らず、奢らず
しかし、卑屈にならず。
Posted by おっさんv at 2010年09月12日 18:08
飲んでもしんどくなるだけ、一向に楽しくならんやないか……なんて時がいずれ来るもんですがねぇ。ギャンブラーさんの場合は、そうなる前にドクターストップがかかってしまいました。だから未練が残るのではありませんか。我輩もかなりの酒豪でしたが、今は酔っ払いが大の苦手です。
Posted by sabue at 2010年09月12日 20:24
教授。今日も、これまで飲んだことのないノンアルコールビールを買ってきました(笑)。まだお酒に未練があるんですねぇ。
アル中ではないので、お酒そのものはなくても生きていけますが、共にお酒を飲んで初めて心が通じ合う、という関係を結べなくなったのが淋しいのです。相手が男でも女でも、お酒を飲みながら楽しく、時にはしみじみとしたひとときを過ごす。自分はもうそういう時間を持てないのだと思うと、なんとも…。
Posted by ギャンブラー at 2010年09月12日 22:31
おっさん、こんばんは。
威張らず、奢らず、卑屈にならず…ですか。私も含めて多くの人は「自分はそうはならないゾ」と思っているはずですが、人から見ると自分はどう映っているんでしょうねぇ。
この歳になって、「結局人と人はわかり合えないのだ」「わかってくれているはずだ、というのは幻想だったんだ」と痛感するような出来事が増えてきました。そんなとき、これまではお酒を飲んで気分転換をしてきましたが、これからどうすればいいのでしょう。
実は今日、高性能フードプロセッサーを購入しました。うまい飯が炊ける炊飯器も買うつもりです。つまり、これからは料理で気分転換をと目論んでいます。開き直って、というより、ジタバタしながら生きていくしかないようです。
Posted by ギャンブラー at 2010年09月12日 22:41
sabueさん。
実は、「飲んでもしんどくなるだけ、一向に楽しくならんやないか」とはここ十年来感じてきたことです。もともと大勢でパァッと…というのが苦手で、「酒は静かに飲むべかりけり」というタイプなもので。従って、パァッと飲むことができなくなっても一向にかまいませんが、ひとり静かに飲むこともできなくなるとは、誤算でした。
それにしても、sabueさんが酒豪だったというのはいかにもイメージ通りで、なぜかうれしいです(笑)。
Posted by ギャンブラー at 2010年09月12日 22:50
こんばんは。
タバコを嗜んでいたときは、禁煙するくらいなら禁酒の方がいいと思っていましたが、タバコを止めた今では何であんなものを吸っていたのか想像できないくらいです(今では匂いをかぐのも嫌)。

酒も同じではないでしょうか。自分の人生の残り時間を考えると、酔っぱらっている暇はないと思うのですが、実際にはなかなか難しい。切っ掛けはどうであれ、増えたしらふの時間を、人生を豊かにするために自由に使えるのは素晴らしいことだと感じます。

それから、私もノンアルコール・ビールを飲むようになりました。サントリーから出た新製品が爆発的に売れているというのを聞いて試したのですが、意外にいけますね。この調子でノンアルコールの洋酒や日本酒、出来ないものでしょうかね。すごく助かるのですけど(笑。
Posted by ato at 2010年09月14日 20:56
atoさんに、「酔っぱらっている暇はないと思うのですが…」と言われると辛いなぁ(笑)。
しらふの時間をいかに有意義に使うか。今のところ料理くらいしか思いつきませんが、何かの拍子に新しい人生(楽しみ)が広がることは決して珍しくはありませんから、ま、せいぜい気張ってみます。
これまで試したノンアルコール・ビールの中では、私もサントリーの「オールフリー」が一番気に入りました。発売早々品切れになるはずです。次は、ノンアルコール・ワインを探そうと思っています。
Posted by ギャンブラー at 2010年09月14日 22:24
ラベルをよく読まずに買った化粧品にアルコールが入っていて、つけたとたんに顔が真っ赤になった私です。もちろんビールは泡で酔うくち。
上京の際には、このバーで美味しいレモンスカッシュで朝まで語り合わせて下さいませ。
Posted by ブルーなビッグママ at 2010年09月15日 11:11
ブルーなビッグママさん、こんばんは。
あれ? ブルーなビッグママさんって一滴も飲めなかったんでしたっけ。私も遅ればせながら「ノンアルコール族」の一員となりました。一度、「酒のない人生の過ごし方」についてじっくりアドバイスをいただきたいものです。どうぞよろしく(笑)。
Posted by ギャンブラー at 2010年09月15日 21:53
酔っぱらう、というより「ふっと何かがほどけていく」って感じが好きなんですよね・・・というのは酒飲みの言い訳でしょうか(笑)

それにしてもバーテンさん素敵ですね。そんな風に「いい時間」を提供できる達人がいらっしゃることは心強いですねぇ。

・・・あのお店、早い時間に一人で行ってもOKな雰囲気ですか?
Posted by たま@ at 2010年09月28日 17:02
「ふっと何かがほどけていく」とは、たま@さんもなかなかお酒というものがわかっていらっしゃる。
あのバーは、夕方6時過ぎからやっています。宵の口はいつもガラガラですから、ゆっくりと飲むことができますよ。「最近病気をしてお酒が飲めなくなった人の紹介で来た」と言っていただければ、通じるはずでございます。「ブルーの色のカクテルで、何かおいしいものはありますか」なんていうオーダーはいかがでしょうか(笑)。
Posted by ギャンブラー at 2010年09月28日 20:36
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